「習い事を始めたはいいけど、忙しくて続かない」。そんな声を、とてもよく聞きます。
仕事、家事、送迎、きょうだいの予定。お母さんの毎日は本当に忙しいです。そこにお子さんの練習時間まで確保しなければならないとなると、「もう無理かも」と思ってしまう気持ちはよくわかります。
でも、ピアノを長く続けているご家庭を見ていると、共通していることがあります。それは、「気合い」ではなく「環境」で続けている、ということ。無理なく続くための環境作りのヒントを、お伝えします。
続かない原因は「意志の弱さ」ではない
習い事が続かないとき、「うちの子にはやる気がないのかな」「私がもっとちゃんと管理しないと」と思いがちです。でも、続かない一番の原因は、意志の弱さでも管理不足でもありません。
環境が整っていないだけ、ということが多いのです。
たとえば、ピアノが部屋の隅に追いやられていて蓋を開けるのが面倒な家と、リビングの一角にいつも蓋が開いた状態で置いてある家。練習量は自然と変わります。
歯磨きが「やる気」で続いている人はいません。洗面台の前に立てば自然に手が動くように、環境が行動を引き出しているんです。ピアノの練習も同じ。「やる気を出す」のではなく、「やる気がなくてもできる仕組み」を作ることが大切です。
ピアノの置き場所で、練習量は変わる
環境作りで最も影響が大きいのが、ピアノの置き場所です。
理想は、家族が過ごすリビングや、お子さんが日常的に通る場所。子ども部屋の奥やクローゼットの横など、わざわざ移動しなければたどり着けない場所に置くと、それだけで練習のハードルが上がります。
「通りすがりに鍵盤を触る」ができる環境が最強です。朝起きてリビングに行ったら目の前にピアノがある。テレビを見ようとしたらピアノが目に入る。そうすると、「ちょっとだけ弾いてみようかな」が生まれやすくなります。
スペースの問題でリビングに置けない場合は、せめて蓋を開けておくこと。楽譜を開いたまま置いておくこと。それだけで、「弾くまでの手間」がひとつ減ります。
あるご家庭で、ピアノを子ども部屋からリビングに移したら、それだけでお子さんの練習頻度が倍になった、というお話がありました。お子さんの意識は何も変わっていない。ただ、「そこにあるから弾いた」。環境の力はそれくらい大きいんです。
「毎日30分」より「毎日3分」
忙しい中でピアノを続けようとすると、「練習時間を確保しなきゃ」というプレッシャーがかかります。でも、「30分練習しなさい」というハードルが高ければ高いほど、「今日はもういいか」と後回しにしてしまいがちです。
おすすめなのは、ハードルを極限まで下げること。「毎日3分でいい」。鍵盤に触って、1曲弾いて、おしまい。それでいい。
3分の練習を毎日続けるほうが、30分の練習を週1回するよりも、ずっと効果があります。なぜなら、ピアノは「毎日触る」ことで指が覚えていく楽器だからです。短くても毎日のほうが、感覚が途切れません。
そして、3分だけのつもりが5分になり、10分になり、気がついたら夢中になっていた、ということも多い。まず鍵盤に触るところまでのハードルを下げることが、結果的に練習時間を伸ばすことにつながります。
「毎日3分」を合言葉にすると、お母さんも気がラクになります。「今日も練習させなきゃ」ではなく、「ちょっと触るだけでいいよ」。その一言が、お子さんのピアノとの付き合い方を変えてくれます。
生活の流れに「組み込む」
練習を「特別な時間」として確保しようとすると、忙しい日は真っ先にカットされます。そうではなく、既にある生活の流れの中にピアノを組み込んでしまうのがコツです。
「ごはんの前に1曲」を習慣にする
夕食前の5分、お子さんが手持ち無沙汰にしている時間はありませんか。その時間に「ごはんまでに1曲弾いてきたら?」と声をかけるだけ。歯磨きと同じように、生活の流れの一部になれば、「練習しなさい」と言わなくても自然と向かうようになります。
朝の支度が早く終わった日に弾く
朝、学校や園に行く準備が早く終わったとき。「出発まであと10分ある」というタイミングで、さっとピアノに向かう習慣を作っているご家庭があります。朝は頭がすっきりしているので、短い時間でも集中した練習ができます。
曜日で決めず「できる日にやる」
「月水金は練習の日」と決めてしまうと、その日が忙しかったときに罪悪感が生まれます。それよりも、「できる日にやる、できない日はやらない」くらいのゆるさのほうが、結果的に続きます。週に4日触れたらOK。3日でも十分。そのくらいの気持ちでいてください。
お母さんの負担を減らす工夫
お子さんの練習を続けるために、お母さんが疲弊してしまっては意味がありません。お母さん自身の負担を減らすことも、大切な「環境作り」の一部です。
送迎の負担を見直す
教室選びで見落としがちなのが、通いやすさです。レッスンの質がどんなに良くても、片道30分かかる教室に毎週通うのは、長期的にはきつくなります。自宅や園・学校の近く、通勤経路の途中など、生活動線上にある教室を選ぶと、送迎の負担がぐっと減ります。
「完璧な練習」を期待しない
「せっかく高いお月謝を払っているんだから、しっかり練習させないと」。そう思う気持ちもわかりますが、この完璧主義がお母さんを一番疲れさせます。
練習しない日があっても大丈夫。レッスンだけでも力はつきます。先生はお子さんのペースに合わせて指導しますから、「家で全然弾いてないんです…」と申し訳なさそうに言う必要はありません。
先生を「チームメイト」にする
忙しくて練習が見られないとき、先生にそのことを伝えてみてください。「今週は仕事が立て込んでいて、家であまり練習できていません」と。
そう言っていただければ、レッスンの中で復習の時間を多く取ったり、練習しやすい短い曲に切り替えたりと、対応ができます。先生はお子さんの敵ではなく、お母さんと一緒にお子さんを支えるチームメイトです。遠慮なく頼ってください。
「忙しいから続けられない」のではなく、「忙しいなりの続け方がある」。長く続けているご家庭は、完璧にやっているのではなく、ゆるく・細く・しなやかに続けています。
「やめどき」よりも「続け方」を変える
忙しさのピークで「もうやめようかな」と思うこともあると思います。でも、やめる前に「続け方を変える」という選択肢も考えてみてください。
レッスンの頻度を月2回に減らす。練習は週末だけにする。しばらくは発表会に出ずにマイペースで進める。こうした調整をすれば、完全にやめなくても、忙しい時期を乗り越えられることがあります。
ピアノは一度やめてしまうと、再開するまでのハードルがとても高い習い事です。細くてもいいから糸をつないでおくと、落ち着いた頃に「またちゃんとやりたい」と思ったときに、すっと戻ってこられます。
忙しいときに「ちゃんとやる」か「やめる」かの二択で考える必要はありません。「ゆるく続ける」という第三の選択肢があります。その柔軟さこそが、長く続けられる秘訣です。
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