「練習しなさい」と言えば「イヤだ」。じゃあ「辞める?」と聞くと、「それもイヤ」。
この会話、心当たりがあるお母さんはとても多いのではないでしょうか。練習はしたくない。でも辞めたくもない。どうすればいいの? と、お母さんのほうが困ってしまう。
実はこの「どっちもイヤ」には、お子さんなりのちゃんとした理由があります。それがわかると、対処の仕方が見えてきます。
「どっちもイヤ」の正体
練習はイヤ、でも辞めるのもイヤ。矛盾しているように見えますが、お子さんの中では矛盾していません。
お子さんが本当に言いたいのは、こういうことです。
「ピアノ自体は嫌いじゃない。でも、今やりたくない」。
ここがポイントです。「ピアノが嫌い」と「練習が嫌い」は、まったく別のことなんです。
ピアノを弾くこと自体は好き。レッスンも嫌いじゃない。でも、「今すぐ練習しなさい」と言われると、やりたくなくなる。遊びたい時間に、やらなきゃいけないことを押し付けられている感覚。それが「イヤ」なのです。
だから「辞める?」と聞かれると、「それは違う」となる。ピアノそのものを嫌いになったわけではないからです。
大人に置き換えてみると、わかりやすいかもしれません。仕事は嫌いじゃない。でも日曜の夜に「明日の準備しなきゃ」と思うと憂鬱になる。「じゃあ仕事辞める?」と言われたら、「いや、そういうことじゃなくて…」となる。お子さんも、同じ気持ちなのだと思います。
「辞めたら?」はNGワード
お子さんが練習を嫌がったとき、つい言ってしまいがちな「じゃあ辞めたら?」。お母さんとしては本気で辞めさせたいわけではなく、「それくらいならちゃんとやりなさいよ」という気持ちから出ている言葉だと思います。
でもお子さんにとって、この言葉はとても怖いものです。
「辞めたら?」は、お子さんには「あなたが頑張っていることを、私は認めていないよ」と聞こえることがあります。あるいは、「やらないなら価値がないよ」と。
お子さんは練習をサボっているかもしれませんが、レッスンには通っています。レッスン中は頑張っています。発表会では緊張しながらもステージに立っています。その「続けている」こと自体が、実はとても大きな頑張りなのです。
「辞めたら?」ではなく、「練習したくないんだね」と、まず気持ちを受け止めること。その一言があるかないかで、お子さんの反応は大きく変わります。
具体的な対処法
1. 練習の「量」を一緒に決める
「練習しなさい」と言われると反発するのは、「量も内容もお母さんが決めている」と感じるからです。
「今日は何分やる?」「どの曲からやる?」と、お子さんに選ばせてみてください。「1分でもいい?」と聞かれたら、「いいよ」と答える。自分で決めた1分は、お母さんに決められた30分より、ずっと意味があります。
そして、自分で決めた量をやり切れたら、「自分で決めてちゃんとやったね」と認める。この繰り返しが、自発性を育てます。
2. 「練習」という言葉を使わない
「練習」という言葉には、「やらなければならないこと」というニュアンスがあります。これを別の言葉に変えるだけで、お子さんの気持ちが変わることがあります。
「ちょっとピアノ弾いてきたら?」「あの曲、聴かせてくれる?」「今日レッスンでやった曲、もう一回聴きたいな」。練習ではなく、「弾く」「聴かせる」という言葉にすると、義務感が薄れます。
3. タイミングを見直す
「練習しなさい」と言うタイミングが、お子さんにとって最悪のタイミングであることは意外と多いです。
遊びに集中しているとき。テレビを見ているとき。学校から帰ってきてまだ切り替わっていないとき。こうしたタイミングで声をかけると、内容に関係なく「イヤ」と反応してしまいます。
お子さんが自然と「何かしようかな」と思うタイミングを観察してみてください。遊びが一区切りついたとき、おやつのあと、お風呂の前。そのタイミングに合わせて「ピアノ弾いてみる?」と軽く声をかけると、意外とすんなり向かうことがあります。
4. 「聴いてほしい」を叶える
お子さんが練習を嫌がる理由の一つに、「一人で弾くのがつまらない」ということがあります。子ども部屋で一人黙々と弾くのは、大人だって退屈です。
「弾いたら聴くよ」と約束して、実際に聴く。弾き終わったら「聴けてうれしかった」と伝える。それだけで、練習は「孤独な作業」から「誰かに聴かせる時間」に変わります。
ずっとそばで聴いている必要はありません。キッチンから「聞こえてるよ」と声をかけるだけでも、お子さんにとっては十分です。
5. 「練習しない期間」を許す
思い切って、「今週は練習しなくてもいいよ」と言ってみること。これは勇気がいりますが、効果的な場合があります。
「やらなくてもいい」と言われると、不思議なことにお子さんは自分から弾き始めることがあります。「やれ」と言われると反発するけれど、自由にされると「ちょっとやってみようかな」と思える。人間はそういうものです。
もし本当に一週間まったく触らなかったとしても、それはそれでいいんです。一週間休んだことでピアノの力が大幅に落ちることはありません。むしろ、「弾かない時間」を経験することで、次に弾いたときに新鮮な気持ちになれることもあります。
「練習しない自由」を与えたうえで、お子さんが自分から弾き始めたら、それが本当の意味での自発性です。強制から生まれた練習は長く続きませんが、自分の意志で始めた練習は、一生モノの力になります。
先生にも相談してください
「練習イヤイヤ、でも辞めるのもイヤイヤ」の状態が続いているとき、一人で抱え込まず、先生に相談してみてください。
先生はこの状態をよく知っています。そして、レッスンの中で対応を変えることもできます。練習を前提としない進め方に切り替えたり、お子さんの好きな曲を取り入れたり、少し息抜きの時間を作ったり。
「練習できていなくて申し訳ない」と思う必要はまったくありません。練習できていない状況も含めて、先生と一緒に考えていくことが大切です。
多くの場合、この「どっちもイヤ」は一時的なものです。成長の過程で、自我が芽生え、反抗期に差しかかり、でもまだ自分の気持ちをうまく言葉にできない時期に起きやすい。時間が経てば、お子さん自身の中で折り合いがつくことが多いです。
「あの時、辞めなくてよかった」。何年か経って、こう言ってくれるお子さんやお母さんが本当にたくさんいます。「どっちもイヤ」の嵐が過ぎたあとに、お子さんとピアノの関係は、それまでよりずっと深くなっています。
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