立ち上がらないのは誰のせいでもないわ。 ― ピアノを通して得た、私の信念
私がずっと大切にしている言葉があります。
3歳でピアノを始めてから今日まで、ピアノは私に、うまくいかない日のほうが多いことを教えてくれました。弾けない、間違える、思うような結果が出ない。そのたびに、この言葉が私の背中をそっと押してくれたのです。
今日は、ピアノを通して得たこの信念と、子どもたちや、子育てをするお母さん・お父さんに伝えたい想いを書いてみたいと思います。
この言葉の、前半と後半
この言葉は、ふたつの部分からできています。
私がこの言葉を好きなのは、前半でちゃんと「あなたのせいじゃないかもしれないよ」と認めてくれているところです。そのうえで、後半で「でも、立ち上がる力はあなたの中にある」と、静かに信じてくれている。
責めるのではなく、信じる言葉。だからこそ、つまずいたときに素直に受けとめられるのだと思います。
ピアノは、つまずきの連続
ピアノを習っていると、子どもも大人も、たくさんつまずきます。
- 何度練習しても、同じところで指がもつれる
- 発表会の本番で、頭が真っ白になる
- 同じ時期に始めた友だちが、先に進んでいく
- がんばったのに、思うような結果が出ない
そんなとき、「先生の教え方が」「ピアノが重くて」「緊張させるから」と、何かのせいにしたくなる気持ちが湧くのは、自然なことです。実際に、環境が合っていなかったということもあるでしょう。
でも、ピアノの前にもう一度座るかどうかを決められるのは、最後は自分だけ。私自身も、悔しい思いをするたびに、そのことを思い知らされてきました。
ピアノが教えてくれた「立ち上がり方」
1. 本番では、間違えても止まらない
ピアノの演奏には、「間違えても止まらずに最後まで弾く」という大切な約束があります。音を外しても、音楽は流れつづける。だから、次の音へ進む。
この感覚は、人生にもそのまま当てはまると感じています。つまずいた瞬間に立ち止まりつづけるのではなく、次の一音を鳴らすこと。それが、立ち上がるということなのだと思います。
2. 大きな壁は、小さく分ける
弾けない曲を最初から最後まで通そうとすると、何度もつまずいて心が折れそうになります。でも、1小節、2小節と小さく分ければ、少しずつ弾けるようになる。大きすぎる壁は、小さな一歩に分ければ乗りこえられます。
3. 比べる相手は、昨日の自分
誰かと比べてつまずいたときは、昨日の自分と比べてみる。昨日より1音でも多く弾けたら、それはもう立派に前へ進んでいる証です。
4. 悔しさは、次の練習のエネルギーになる
悔しい気持ちは、それだけ本気で向き合った証拠。その気持ちを否定せずに、「次はこうしたい」というエネルギーに変えていけば、悔しさは成長の原動力になります。
5. 休むことも、立ち上がる準備
立ち上がるのは、すぐでなくてもいい。疲れたら休んで、心が整ってから、もう一度ピアノの前に座ればいいのです。休むことは、あきらめることではありません。
子どもたちに伝えたいこと
子どもがつまずいたとき、私が大切にしているのは、いきなり「人のせいにしないの」と言わないことです。
まずは、「悔しかったね」「そうだったんだね」と、その気持ちをまるごと受けとめる。つまずいたことには、本当に誰かや何かの影響があったのかもしれないのですから。
そして、気持ちが落ち着いたら、「じゃあ、次はどうしたい?」と聞いてみる。立ち上がるかどうか、どう立ち上がるかを、子ども自身が選べるように。
| こんなとき | △ ついかけがちな言葉 | ◎ 立ち上がる力を育てる言葉 |
|---|---|---|
| 本番で失敗した | 「あんなに練習したのに」 | 「最後まで弾けたね。悔しかったね。次はどうしたい?」 |
| 「先生のせい」と言う | 「人のせいにしないの」 | 「そう感じたんだね。じゃあ、自分にできることは何かな?」 |
| 「もうやりたくない」と言う | 「がんばりなさい」 | 「今日は休もうか。また弾きたくなったら教えてね」 |
| 友だちと比べて落ちこむ | 「〇〇ちゃんはできてるよ」 | 「先月のあなたより、ずっと上手になってるよ」 |
立ち上がる力は、誰かに無理やり引っぱり上げられて育つものではありません。「あなたなら立ち上がれる」と信じてくれる大人がそばにいるからこそ、子どもは自分の足で立ち上がっていけるのです。
子育てでつまずく、大人にも
この言葉は、子どもだけでなく、子育てをする私たち大人にも向けられているように感じます。
寝不足、ワンオペ、思いどおりにいかない毎日。つまずく理由は、きっと自分のせいだけではありません。だから、自分を責めすぎなくていい。
そのうえで、もうひとつ伝えたいことがあります。立ち上がるのは、ひとりでなくてもいいということ。誰かに手を借りて立ち上がることも、立派な「自分で選んだ立ち上がり方」です。
生活は大きく変わり、思うようにいかない日の連続です。
眠れない夜、余裕のない朝、誰かのせいにしたくなる日もあります。
それでも、最後にもう一度立ち上がるかどうかを決めるのは、自分。
その信念を私にくれたのは、3歳から向き合ってきたピアノでした。
間違えても止まらずに、次の一音を鳴らす。
ピアノの前で何度もくり返してきたことが、今、母としての私を支えてくれています。
立ち上がるのは、あなたのタイミングで。
その力は、もうあなたの中にあります。
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