「うちの子、すぐ諦めちゃうんです」「難しいとやりたくないって言うんです」
こんなお悩み、ありませんか?
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は、30年以上の研究で、たった一つの「考え方の違い」が子どもの成長を大きく左右することを証明しました。
キャロル・ドゥエック教授とは
Carol S. Dweck(キャロル・S・ドゥエック)
スタンフォード大学心理学教授。バーナード大学(コロンビア大学)卒業後、イェール大学で博士号を取得。人間のモチベーションと発達に関する世界的権威。米国心理学会より Distinguished Scientific Contribution Award(2011年)を受賞。全米科学アカデミー会員。著書『マインドセット――「やればできる!」の研究』(草思社, 今西康子訳)は世界的ベストセラー。TEDトークは数百万回再生されている。
ドゥエック教授が30年以上かけて解き明かしたのは、こんなシンプルな事実です。
「能力は生まれつき決まっている」と信じるか、「能力は努力と戦略で伸ばせる」と信じるか。この信念の違いが、子どもの学び方、挑戦する姿勢、挫折からの立ち直り方を大きく変える。
2つのマインドセット ― 硬直 vs しなやか
ドゥエック教授は、人の信念を2つのマインドセットに分けました。
硬直マインドセット(Fixed Mindset)
「才能は生まれつき決まっている」
失敗 = 自分には才能がない証拠
難しいことは避けたい
努力するのはカッコ悪い
人と比べて「上か下か」が気になる
しなやかマインドセット(Growth Mindset)
「能力は努力と戦略で伸ばせる」
失敗 = 成長のための情報
難しいことこそやってみたい
努力は上達への道
昨日の自分と比べて「伸びたかどうか」が大事
大切なのは、マインドセットは生まれつきのものではないということです。
ドゥエック教授の研究は、マインドセットは変えられることを繰り返し示しています。
そして、親や先生の声かけが、子どものマインドセットに大きな影響を与えます。
褒め方ひとつで、子どもの行動が変わる
ドゥエック教授の最も有名な研究は、「褒め方」に関する実験です。
子どもたちにパズルを解かせたあと、2つのグループに分けました。
知能を褒めたグループ
「頭がいいね!」
→ 次に簡単な課題を選んだ
→ 難しい問題で成績が下がった
→ 失敗を隠すようになった
努力を褒めたグループ
「がんばったね!」
→ 次に難しい課題に挑戦した
→ 難しい問題で成績が上がった
→ 失敗しても粘り強く取り組んだ
「頭がいいね」と褒められた子は、その評価を守るために、失敗のリスクがある挑戦を避けるようになりました。
一方、「がんばったね」と褒められた子は、失敗を恐れず、より難しい課題に自分から挑んでいったのです。
たった一言の褒め方の違いが、子どもの「挑戦するかしないか」を変えてしまう。ドゥエック教授の研究は、声かけの力がいかに大きいかを教えてくれます。
「まだ」の魔法 ― Not Yet
ドゥエック教授のTEDトークで最も反響を呼んだのが、この「まだ(Not Yet)」の話です。
シカゴのある高校では、必修科目に合格できなかった生徒に「不合格」ではなく「まだ(Not Yet)」という評価をつけました。
Not Yet = まだ
「できない」ではなく「まだできていない」
「不合格」は能力への判決。「まだ」は成長への招待状。
「できない」と言うと、そこで物語が終わります。
「まだできていない」と言うと、物語の途中にいることになります。
この小さな一語が、子どもの脳を「判定モード」から「成長モード」に切り替えます。
「”まだ”という言葉が持つ力を、私は大切にしています。”まだ”がついた瞬間、子どもは成長の道の途中にいると感じられるのです」
― Carol Dweck TEDトーク「The power of believing that you can improve」より
ドゥエック教授自身の「修正」― 偽のグロースマインドセット
ドゥエック教授の研究が世界に広まるにつれ、誤解も広がりました。
そこでドゥエック教授自身が「偽のグロースマインドセット」に注意するよう呼びかけています。
ドゥエック教授が指摘する「よくある誤解」
☑ 「努力さえすればいい」→ 間違い。努力だけでなく、やり方(戦略)を変えることも大切
☑ 「がんばったね、で終わる」→ 不十分。成果が出ていないなら、一緒に新しい方法を考える必要がある
☑ 「グロースマインドセットを持てばすべてうまくいく」→ 誇張。マインドセットは万能薬ではなく、具体的な戦略と組み合わせて意味を持つ
ドゥエック教授はこう語っています。
本当のグロースマインドセットとは、努力を褒めるだけではなく、うまくいかないときに「じゃあ別のやり方を試してみよう」と一緒に考えること。
つまり、努力+戦略+助けを求める力。この3つが揃って初めて、グロースマインドセットは子どもの力になります。
ピアノノギフトが、ドゥエック教授の教えと重なるところ
ドゥエック教授のマインドセット理論を学ぶほど、私たちの「才醒(さいせい)」の理念とのつながりを感じます。
☑ 安心できる場で → 失敗しても「まだ」と言える場所。間違いが許される安心があるから挑戦できる
☑ 正直な感情と共に → 「悔しい」も「嬉しい」も成長の証。感情に蓋をしないから、学びが深まる
☑ 問いを交わしながら → 「じゃあ次はどうやってみる?」という戦略の問い。答えを教えるのではなく、一緒に考える
☑ その子の中の音楽を目覚めさせる → 能力は伸ばせると信じること。それが才醒の出発点
ピアノのレッスンは、マインドセットが最も試される場のひとつです。
弾けない曲にぶつかったとき、「自分には才能がない」と思うか、「まだ弾けていないだけ」と思うか。
この違いが、その子がピアノを続けられるかどうか、もっと言えば、人生で壁にぶつかったときに立ち上がれるかどうかを左右します。
私たちのレッスンでは、うまく弾けなかった部分について「ここが弾けなかったね」で終わりにしません。
「今日はここまでできたね。じゃあ次は、左手だけゆっくりやってみようか」。
これは、ドゥエック教授が言う「努力+戦略」の声かけそのものです。
レッスンでの声かけの工夫
☑ 「上手だね」(才能への褒め)→ 「この部分、先週より滑らかになったね」(プロセスへの褒め)に変える
☑ 「弾けないね」→ 「まだ弾けていないだけ。どこから練習してみる?」に変える
☑ うまくいかないときこそ「今日はどんな発見があった?」と聞いてみる
ピアノのレッスンは、しなやかマインドセットを育てる最高の場です。「まだ弾けない」が「弾けた!」に変わる体験の積み重ねが、お子さんの中に「自分は成長できる」という信念を育てます。
今日からできること
ドゥエック教授の研究が教えてくれるのは、日常の小さな言葉の力です。
「頭がいいね」「才能あるね」ではなく、「がんばったね」「工夫したね」とプロセスを褒める
お子さんが「できない」と言ったら、「まだね」とひと言つけ加える。「まだ弾けないだけだよ」
うまくいかないときは「もっとがんばれ」ではなく「別のやり方を一緒に考えよう」と声をかける
親自身が「失敗しちゃった。でもこうやって直したよ」と見せる。子どもは親のマインドセットを見て育つ
ドゥエック教授はこう言っています。
マインドセットは、一度身につけたら終わりではありません。私たち自身も、日々の中で硬直マインドセットとしなやかマインドセットの間を行ったり来たりしています。大切なのは、しなやかなほうに戻る練習を続けること。子育ても、ピアノも、同じです。
「まだ」の力で成長するピアノレッスンを体験してみませんか?
参考:キャロル・S・ドゥエック著, 今西康子訳『マインドセット――「やればできる!」の研究』(草思社, 2016)原題: Mindset: The New Psychology of Success
参考:Carol Dweck TEDトーク「The power of believing that you can improve」(TEDxNorrkoping)
参考:Carol Dweck「Recognizing and Overcoming False Growth Mindset」(Edutopia, 2015)
参考:Carol Dweck「Carol Dweck Revisits the ‘Growth Mindset’」(Education Week, 2015)
参考:Dweck, C.S. (2019)「Mindsets: A View From Two Eras」(Annual Review of Psychology)


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