「うちの子、練習しないで遊んでばかり…」
そう思ったことがあるなら、今日のお話はきっと心が軽くなります。
世界的な発達心理学者アリソン・ゴプニック教授は、子どもの「遊び」や「寄り道」こそが、最も高度な学びだと科学的に証明しています。
アリソン・ゴプニック教授とは
Alison Gopnik(アリソン・ゴプニック)
カリフォルニア大学バークレー校 心理学教授・哲学客員教授。マギル大学で修士号、オックスフォード大学で博士号を取得。子どもの認知発達と学習に関する世界的な第一人者。「子どもは科学者のように世界を学ぶ」という「セオリー・セオリー」を提唱。TEDトークは数百万回再生。日本でも『哲学する赤ちゃん』『思いどおりになんて育たない』の2冊が翻訳出版されている。
ゴプニック教授の研究が一貫して伝えているのは、こんなメッセージです。
子どもは「未熟な大人」ではない。子ども時代には、大人にはない特別な学びの力がある。その力は、遊び・探索・好奇心の中でこそ発揮される。
「大工」ではなく「庭師」になる
ゴプニック教授の代表作『思いどおりになんて育たない』(原題:The Gardener and the Carpenter)の中心にあるのが、この比喩です。
ゴプニック教授は、現代の子育てが「大工」型に偏りすぎていると指摘します。
この教室に入れて、この習い事をさせて、この力を身につけさせて…。
その結果、親も子も不安になり、窮屈になってしまう。
でも科学が教えてくれるのは、子どもは親が設計した通りには育たないということ。
むしろ、安全で愛情に満ちた環境さえあれば、子どもは自分自身の力で驚くほど豊かに育つということです。
「親の仕事は、特定の子どもを作ることではなく、さまざまな可能性を持った子どもが安心して育つ環境をつくることです」
― Alison Gopnik『The Gardener and the Carpenter』より
子どもは「小さな科学者」である
ゴプニック教授の研究で最も有名なのは、子どもが驚くほど高度な方法で世界を学んでいるという発見です。
子どもは仮説を立て、実験し、結果を見て理論を修正する。このプロセスは、科学者がやっていることとまったく同じです。
ゴプニック教授の研究室で行われた有名な実験があります。
赤ちゃんの前に、ブロッコリーとクラッカーの2つのボウルを置きます。赤ちゃんはみんなクラッカーが好き。
ここで研究者が「ブロッコリーおいしい!」と演じてみせると、18ヶ月の赤ちゃんはブロッコリーを差し出しました。
自分はクラッカーが好きなのに、「この人はブロッコリーが好きなんだ」と理解して、相手が望むものを渡したのです。
18ヶ月の赤ちゃんが、すでに「人の気持ちは自分とは違う」ことを理解し、相手の立場で行動できていた。これは、多くの大人でさえ難しいことです。
ゴプニック教授はTEDトークでこう語っています。
赤ちゃんや小さな子どもの心は、最も優秀な科学者の心のように、仮説を検証し、統計的な確率を計算し、信念を更新しています。
ただし、子どもはそれを「遊び」の中でやっているのです。
「ランタンの意識」― 子どもだけが持つ特別な力
ゴプニック教授の理論の中で、とても美しい概念があります。
それが「ランタン意識」と「スポットライト意識」の違いです。
大人の意識 = スポットライト
ひとつのことに集中する
効率よく、目的に向かう
重要でないものは無視する
子どもの意識 = ランタン
すべてに光を当てる
あちこちに注意が向く
「関係ないもの」からも学ぶ
大人から見ると、子どもは「集中力がない」「すぐ気が散る」ように見えます。
でもゴプニック教授は、それこそが子どもの脳が持つ最大の強みだと言います。
子どもの脳は、まだ何が重要で何が重要でないかを決めていません。
だからこそ、すべてに注意を向ける。大人が見落とすものにも気づく。
この「ランタン意識」があるから、子どもは大人よりもはるかに多くのことを、はるかに速く学べるのです。
「赤ちゃんであることは、パリで初めて恋に落ちた状態で、エスプレッソを3杯飲んだようなもの」
― Alison Gopnik TEDトーク「赤ちゃんは何を考えているでしょう?」より
すべてが鮮やかで、すべてが新しく、すべてに意味がある。
それが、子どもの意識のありかたです。
「探索」と「活用」― 子ども時代が存在する理由
ゴプニック教授は、なぜ人間に長い子ども時代があるのかという問いに、進化の視点から答えを出しています。
それが「探索(explore)」と「活用(exploit)」のトレードオフという考え方です。
子ども時代 = 探索の期間
計画性はないけれど、可能性を広く探る
失敗しても大丈夫な安全な環境で、あらゆることを試す
脳のシナプスが爆発的に増える時期
大人 = 活用の期間
効率よく、知っていることを使う
不要なシナプスは刈り込まれ、使う回路だけが強くなる
柔軟性は減るが、実行力が上がる
子ども時代が長いことは、一見すると非効率に見えます。
でも実は、長い子ども時代こそが人間の知性を作っている、とゴプニック教授は主張します。
十分に「探索」した子どもは、大人になったとき、より豊かな選択肢を持つことができるからです。
子どもの「集中力がない」「遊んでばかり」は、脳が最も効率的に学んでいるサイン。探索の時間を十分に持つことが、将来の力の土台になります。
遊びは最も高度な学びである
ゴプニック教授の研究が一貫して示しているのは、遊びの価値です。
子どもの遊びは「暇つぶし」ではありません。
遊びとは、安全な環境の中で、さまざまな可能性を試す「探索行動」そのものです。
積み木を積んでは崩す。何度も同じ曲を鼻歌で歌う。ぬいぐるみに話しかける。
大人にはムダに見えるこうした行為の中で、子どもは仮説を立て、検証し、世界の「因果関係」を学んでいます。
ゴプニック教授の研究では、ごっこ遊びをよくする子どもは、因果関係の理解や反事実的思考(「もし〇〇だったらどうなっていたか」)の力が高いことが示されています。
ゴプニック教授が示す「遊び」の3つの学びの形
☑ 見る(模倣):大人のやることを見て、まねる。ピアノの先生の手の動きを見つめるのも、立派な「見る」学び
☑ 聴く(質問):「なんで?」「どうして?」と問い続ける。この問いが、因果関係の理解を深める
☑ やってみる(発見):自分で試して、結果を体験する。これが最も深い学びにつながる
ピアノノギフトが、ゴプニック教授の教えと重なるところ
ゴプニック教授の理論を知るほど、私たちが大切にしている「才醒(さいせい)」の理念とのつながりに気づきます。
☑ 安心できる場で → ゴプニック教授の「庭師」。安全で愛情のある土壌があれば、子どもは自分で育つ
☑ 正直な感情と共に → ゴプニック教授の「ランタン意識」。すべてを感じ取る子どもの力を、潰さずに活かす
☑ 問いを交わしながら → ゴプニック教授の「子どもは科学者」。答えを教えるのではなく、問いを一緒に楽しむ
☑ その子の中の音楽を目覚めさせる → ゴプニック教授の「探索」。十分に遊び、試した先に、その子だけの音楽が生まれる
ピアノノギフトのレッスンでは、お子さんが楽譜と違う音を弾いても、すぐに止めたりしません。
「今の音、面白いね。どうしてそう弾いたの?」と聴くことがあります。
これはまさに、ゴプニック教授が言う「庭師の姿勢」であり、「探索を見守る」ということです。
子どもにとってピアノは、音の世界を「探索」する冒険です。
高い音と低い音の違いを発見する。強く弾くと大きな音が出ることを体で感じる。同じ曲でも速さを変えると印象が変わることに気づく。
こうした一つひとつの発見が、「小さな科学者」としての探索そのものです。
ピアノのレッスンは、音楽という安全な世界の中で、子どもが思う存分「探索」できる時間です。寄り道も、間違いも、すべてがその子だけの発見になります。
今日からできること
ゴプニック教授の研究が教えてくれるのは、意外なほどシンプルなことです。
お子さんが「遊んでばかり」に見えても、それは脳が最も活発に学んでいる時間だと知る
「大工」ではなく「庭師」を意識する。完成図を押しつけるのではなく、豊かな土壌をつくる
お子さんの「なんで?」「どうして?」にできるだけ付き合う。答えを急がなくていい。一緒に考える姿を見せるだけでいい
予想外のことをしたとき、「違う」ではなく「面白いね」と言ってみる。探索の芽を摘まない
ゴプニック教授はこう言っています。
子どもは「未完成の大人」ではなく、「探索の天才」。子ども時代にしかできない学び方がある。その時間を信じて、見守ってあげることが、親にできる最も大切なことです。
お子さんの「探索する力」を音楽で育てるレッスンを体験してみませんか?
参考:アリソン・ゴプニック著, 青木玲訳『哲学する赤ちゃん』(亜紀書房, 2010)原題: The Philosophical Baby
参考:アリソン・ゴプニック著, 渡会圭子訳『思いどおりになんて育たない:反ペアレンティングの科学』(森北出版, 2019)原題: The Gardener and the Carpenter
参考:Alison Gopnik TEDトーク「What do babies think?」
参考:Gopnik, A. (2020) “Childhood as a solution to explore–exploit tensions” Philosophical Transactions of the Royal Society B


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