子育ての情報、多すぎませんか。
SNSを開けば「こうすべき」「これはNG」という言葉であふれていて、本屋に行けば子育て本のコーナーだけで何十冊もある。読めば読むほど、調べれば調べるほど、正解がわからなくなっていく。
私にも、そういう時期がありました。そんなとき、恩師からもらった言葉がずっと心に残っています。3人のお子さんを育て上げ、今はお孫さんにデレデレの先生が、笑いながら言った一言。それが、私の子どもとの向き合い方を変えてくれました。
「子育ての本は、参考程度にね」
恩師にそう言われたとき、最初は少し驚きました。先生自身も教育に携わってきた方なのに、本を「参考程度に」と言い切るのか、と。
でも先生は続けてこう言いました。
「本に書いてあることは、誰かの子どもには当てはまったこと。でもあなたの目の前にいるのは、その子じゃないでしょう? 本の通りにやって上手くいかないと、自分が悪いのかなって思っちゃうお母さんが多いのよ。でもそれは、本が悪いんじゃなくて、子どもが悪いんでもなくて、ただ合わなかっただけなの」
この言葉に、とても救われました。
私自身、レッスンの中で「この方法がいいと本に書いてあったのに」と思うことがありました。でも先生の言葉を聞いてから、本に書いてあることはあくまでも「ヒント」であって、「答え」ではないのだとわかったんです。
育児書を読むことが悪いわけではありません。知識があることで安心できることもたくさんあります。ただ、本に書かれていることと目の前のお子さんが違ったとき、「本の通りにならない」と不安になる必要はないのだと思います。
「目の前の子どもを、よく観察していれば大丈夫」
恩師がくれたもう一つのアドバイスが、これでした。
よく観察する。たったそれだけのことなのに、これが一番難しくて、一番大切なことだと思います。
観察するというのは、ただ見ているだけとは違います。「今日はいつもより元気がないな」「この曲を弾いているとき、楽しそうだな」「最近、左手の動きが変わってきたな」。小さな変化に気づくこと。その変化の意味を、想像してみること。
育児書には「3歳でこれができる」「5歳でこうなる」と書いてあります。でも実際の子どもは、そんなにきれいに教科書通りには進みません。ある部分はとても早くて、ある部分はゆっくりで、昨日できたことが今日できないこともある。
その「今、この瞬間のこの子」を見ていれば、何が必要なのかは自然と見えてくる。恩師はそう教えてくれました。
先生は「私も3人育てたけど、全員違ったわよ。1人目で学んだことが2人目には通用しないし、3人目はまた別の生き物だった」と笑っていました。3人育てた方の実感だからこそ、重みがあります。
ピアノのレッスンでも、同じことを感じます
私はレッスンの中で、お子さんを「観察する」時間をとても大切にしています。
教え方のメソッドや教材は、もちろん大事です。でも、それ以上に大事なのは、目の前のお子さんが今どんな状態にあるかを見ること。
集中力が切れかけているのか、まだもう少しいけそうなのか。今日は音を出すことが楽しいのか、それとも誰かに聴いてもらいたい気分なのか。同じ曲を弾いていても、日によってお子さんの表情は全然違います。
教科書通りに「次はこの曲、その次はこの練習」と進めるだけでは、その日のお子さんには合わないことがある。だから私は、レッスンの流れをお子さんの様子を見ながら調整するようにしています。
これは恩師から学んだことがそのまま活きている部分です。メソッドは参考程度に。目の前の生徒をよく見ていれば、何をすべきかは見えてくる。
情報を手放すと、見えてくるもの
情報が多い時代だからこそ、「一度手放してみる」ことの価値があると思います。
SNSを閉じて、本を置いて、目の前のお子さんだけを見てみる。何をして遊んでいるのか。どんな表情をしているのか。何に興味を持っているのか。
すると、「この子は今、これが好きなんだな」「こういう時にうれしそうにするんだな」ということが、情報の中にいたときよりもずっとクリアに見えてきます。
恩師は「お母さんが一番わかってるのよ、本当は」とも言っていました。毎日一緒にいるお母さんには、専門家にもわからない「うちの子のこと」がわかっている。そのことに自信を持っていいのだと。
情報を集めることは安心材料になりますが、集めすぎると不安材料にもなります。「調べるのは3冊まで。あとは自分の目を信じなさい」という恩師の言葉は、情報過多のこの時代にこそ必要な助言かもしれません。
観察は、信頼の第一歩
お子さんをよく観察するということは、お子さんを信頼するということでもあります。
「この子はまだできないだろう」と決めつけずに見てみると、意外なところで成長していることに気づけます。逆に、「もうできるはずなのに」と思っていたことが、実はまだ準備段階だったとわかることもある。
どちらの場合も、大人の思い込みではなく、お子さんの「今」を受け入れることになります。
レッスンに来るお子さんの保護者の方に、私はよくこうお伝えしています。「おうちでの様子で気になることがあったら、いつでも教えてください」と。それは、お母さんの観察こそがレッスンを良くする一番のヒントだからです。
先生が教室で見ているのは週に1回の姿。でもお母さんは毎日見ている。その「毎日見ている人の目」は、どんな教科書よりも正確です。
3人育てた先生が、孫にデレデレな理由
恩師は今、お孫さんの話になると目尻が下がりっぱなしです。
「自分の子どものときは必死だったから、楽しむ余裕がなかった」とおっしゃっていました。「でも孫は、ただただかわいい。責任のプレッシャーがない分、純粋にこの子の成長を楽しめるのよ」と。
その話を聞いて、思ったことがあります。
子育て中のお母さんは、「楽しまなきゃ」と言われても、正直それどころではない日もあると思います。必死で当たり前です。余裕がなくて当たり前です。
でも、恩師の言葉を借りるなら、「大丈夫。ちゃんと見ていれば、それでいいから」。完璧にやろうとしなくていい。全部の情報を把握しなくていい。目の前のお子さんを見て、感じて、そのときに自分ができることをする。それだけで、十分すぎるほど十分なのだと思います。
「子育てに正解はないけど、”見ている”ということだけは、絶対に間違いじゃないから」。恩師のこの言葉を、今子育てを頑張っているすべてのお母さんに届けたいです。
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