「練習しなさい」って、もう何回言ったかわからない。
そんなため息をつきたくなること、ありませんか。
ピアノの先生として、この悩みは本当によく聞きます。でも、「練習しない=やる気がない」とは限りません。今回は、お子さんが練習しない本当の理由と、声かけを変えるだけで変わるヒントをお伝えします。
「練習しない」にはちゃんと理由がある
お子さんがピアノの練習をしないとき、つい「やる気がないのかな」と思ってしまいますよね。
でも、レッスンの現場で見ていると、練習しない子の多くは「やる気がない」のではなく、「どう練習すればいいかわからない」のです。
大人でも、やることがぼんやりしていると手が止まりますよね。お子さんも同じです。「ピアノを練習しなさい」と言われても、何をどのくらいやればいいのかが見えないと、ピアノの前に座る気持ちになれません。
ほかにも、こんな理由が隠れていることがあります。
「弾けない部分がつらい」。何度やってもできないところがあると、練習すること自体がストレスになってしまいます。
「今弾いている曲が好きじゃない」。興味のない曲だと、どうしても気持ちが向きにくいものです。
「ほかにやりたいことがある」。ゲーム、友達との遊び、ほかの習い事。お子さんの世界は忙しいのです。
大切なのは、「なぜ練習しないのか」を叱る前に、少しだけ想像してみること。理由がわかると、対応もぐっと変わります。
「練習しなさい」が逆効果になる理由
「練習しなさい」は、親御さんが言いたくて言っている言葉ではないと思います。お子さんのために、つい口をついて出てしまう言葉ですよね。
でも正直に言うと、この声かけは逆効果になることが多いのです。
なぜなら、「練習しなさい」と言われた瞬間、お子さんの中で「自分からやろう」という気持ちが消えてしまうからです。
本当はあと5分したら弾こうと思っていたのに、先に言われてしまった。それだけで「やらされている」気持ちになってしまう。
これは、大人でも同じではないでしょうか。「そろそろ掃除しようかな」と思っていたタイミングで「掃除して」と言われたら、急にやりたくなくなりますよね。
お子さんにとってピアノの練習が「自分で決めたこと」であるうちは、続けられます。でも「言われたからやること」になった瞬間、練習は義務に変わってしまいます。
では、どうすればいいのか。それは、声のかけ方をほんの少し変えるだけで大丈夫です。
先生が実践している5つの声かけ
私がレッスンや親御さんへのアドバイスで実践している、声かけのコツを5つご紹介します。
1つ目は、「今日はどこを弾く?」と聞くこと。「練習しなさい」ではなく、「どこを弾く?」と聞くだけで、お子さんは「自分で決めた」と感じられます。選択肢を渡すことで、練習へのハードルがぐっと下がります。
2つ目は、時間を短く区切ること。「30分練習しなさい」は、お子さんにとって果てしなく長い時間です。「5分だけ弾いてみよう」のほうが、ピアノの前に座りやすくなります。5分弾けたら、そのまま続けることも多いのです。
3つ目は、「できたところ」を先に伝えること。「ここ間違えてるよ」ではなく、「ここ、前よりなめらかになったね」と先に言う。できていることを認められると、お子さんは「もう少しやってみよう」と思えるものです。
4つ目は、練習の「目的」を小さくすること。「この曲を完璧に弾けるようになろう」ではなく、「この2小節だけ、つっかえないで弾けたらOK」。ゴールが小さいほど、達成感を感じやすくなります。
5つ目は、親御さんも一緒に音楽を楽しむこと。お子さんが弾いている横で聴いてあげる。「この曲、好きだな」とつぶやく。それだけで、お子さんは「聴いてもらえている」と感じます。ピアノが家族の時間になると、練習の意味が変わっていきます。
練習しなかった子が変わった瞬間
私の教室にも、最初はまったく家で練習しない子がいました。
レッスンに来ても前回と同じところからスタート。お母さんも「すみません、全然弾いてなくて…」と申し訳なさそうにしていました。
でも、その子がある日突然、変わったのです。
きっかけは、レッスンで「この曲、弾けたらお母さんに聴かせてあげよう」と言った一言でした。
その次のレッスンで、その子は初めて家で練習してきました。しかも、「お母さんに聴かせたら、すごいって言ってくれた」と嬉しそうに報告してくれたのです。
練習の動機は、「上手にならなきゃ」ではなく、「喜んでほしい人がいる」だったのです。
お子さんが練習するようになるきっかけは、意外なところにあります。好きな曲に出会ったとき、友達に「弾ける?」と聞かれたとき、発表会の日程が決まったとき。
「今、練習しないこと」をあまり深刻に捉えすぎなくて大丈夫です。きっかけは、ある日突然やってきます。
ピアノの先生として伝えたいこと
「うちの子、全然練習しないんですけど、続けていて意味ありますか?」。
この質問を、何度もいただいてきました。
私の答えは、いつも同じです。「大丈夫です。意味は、ちゃんとあります」。
なぜなら、練習しない時期があっても、レッスンに通い続けているだけで、お子さんの中には確実に何かが育っているからです。
先生の話を聞く力、音を感じる耳、「今日はうまく弾けた」「今日はダメだった」と自分を振り返る力。それは家で毎日30分練習することとは、また別の成長です。
練習量が少ない時期があっても、それは「ピアノと距離を取っている時期」であって、「ピアノが無駄になっている時期」ではありません。
お子さんのペースを信じて、長い目で見てあげてください。ピアノの先生は、いつでもお子さんの味方です。
そして親御さん自身も、「ちゃんと練習させなきゃ」と自分を責めなくて大丈夫です。お子さんをピアノ教室に通わせている、それだけで十分素敵なことですから。

コメント