レッスン後にお母さんからそう聞かれたとき、以前の私は「大丈夫ですよ」としか答えられませんでした。
でも産後、初めてのレッスンを終えた日。
あの質問の裏にある気持ちが、はっきりとわかったのです。
産後初レッスン、私の手は震えていた
産休を終えて教室に戻った日、正直に言うと不安でいっぱいでした。
何ヶ月もレッスンから離れていた。ちゃんと教えられるだろうか。生徒たちは私のことを覚えていてくれるだろうか。
そしてもうひとつ。家に残してきた我が子のことが、ずっと頭から離れませんでした。
「泣いていないかな」「ミルクは飲めたかな」。レッスン中もふとした瞬間にそう考えてしまう自分がいて、そんな自分にも戸惑いました。
でも、その経験が私を変えてくれました。
「預けて来ること」の重みを知った
レッスンに来るお子さんのお母さんたちは、毎週子どもを送り届けてくれます。
以前の私にとって、それは「当たり前のこと」でした。
でも、自分が母親になって初めて、それがどれだけ大変なことか知りました。
仕事を調整して、お迎えの時間に間に合うように動いて、場合によっては下の子も連れて。雨の日も、体調が万全でない日も、それでもレッスンに連れて来てくれる。
その違いに気づいたとき、レッスンへの姿勢が変わりました。
お母さんが子どもをピアノ教室に送り出すとき、そこには「この時間が、この子にとって良いものであってほしい」という願いがあります。その願いの重さを、私は自分が母親になるまで本当の意味ではわかっていなかったのです。
「大丈夫ですよ」の中身が変わった
冒頭の質問に戻ります。「うちの子、ちゃんとやれてますか?」
以前の私は、技術的な意味で答えていました。「はい、今この曲が弾けるようになっています」「リズムが安定してきました」。
でも産後、この質問の本当の意味がわかりました。
お母さんが聞きたいのは、テクニックの進捗ではありません。
「この子は楽しめていますか?」「居場所になっていますか?」「来る意味はありますか?」
そういうことを聞いているのです。
今の私の「大丈夫ですよ」
「大丈夫ですよ。今日もレッスン室に入ってきたとき、嬉しそうな顔をしていましたよ」。今の私は、その子の表情や空気感から「大丈夫」を伝えるようになりました。お母さんが安心できる言葉は、技術の報告ではなく、子どもの心の様子だったのです。
「ごめんなさい」が言えるようになった
完璧な先生でいたかった頃の私は、レッスンで失敗したと感じても、それを表に出しませんでした。
でも産後、私は生徒やお母さんに「ごめんなさい」が言えるようになりました。
「今日は少し急がせちゃったね、ごめんね」「もう少し丁寧に説明すればよかったですね」。
自分が完璧な母親ではないと知ったから、完璧な先生でなくてもいいと思えるようになりました。その代わり、誠実ではいたい。間違えたら「ごめんね」と言える先生でいたい。
そう思えるようになったのは、子育てが教えてくれたことです。
ママの気持ちがわかる先生でいたい
私は今、生徒の前に立つとき、二つの視点を持っています。
ひとつは、ピアノの先生としての視点。もうひとつは、同じように子どもを育てるママとしての視点です。
どちらが正しいということではなく、両方あるから見えることがある。
「今日は集中できなかったけど、来てくれただけでえらい」と思える。「お母さんも今日は大変だったんだろうな」と想像できる。
それは、自分がママになって初めて手に入れた、
いちばん大切な「資格」かもしれません。
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