子育てでもピアノのレッスンでも、
私がいちばん練習してきたのは「待つこと」かもしれません。
子どもと過ごす毎日の中で見つけた、「待つ」の本当の意味をお話しします。
かつての私は「待てない先生」だった
若い頃の私は、待てない先生でした。
レッスン中、子どもが考えている時間が長いと、つい口を出してしまう。「ここはドだよ」「指はこうだよ」。答えを先に教えてしまうのです。
限られた時間の中で効率よく進めたい。その気持ちが強すぎました。
でもあるとき気づきました。私が先に教えてしまうと、子どもは「自分で見つける」という経験ができないのだ、と。
先に答えを渡してしまうのは、親切なようで、実はその子の成長を奪っている。
子育てが教えてくれた「待つ」
子育てを始めて、待つことの大切さを体で知りました。
赤ちゃんが初めてスプーンを持とうとする。何度も落とす。口に運ぼうとして頬にぶつける。テーブルも床もぐちゃぐちゃになる。
手を出したくなる。代わりにやってあげたくなる。そのほうが早いし、汚れない。
でも、ここで手を出さないこと。それが「待つ」ということでした。
「この子にはできる」と信じて、
手を出さずに見守ること。
それが、待つことの本当の意味です。
レッスンでの「待つ」を変えた
子育ての経験を通じて、私はレッスンでの「待ち方」を変えました。
以前は「効率よく教えるために待てなかった」のですが、今は「この子が自分で気づくために待つ」ようにしています。
たとえば、楽譜を読んでいて音がわからないとき。以前なら「それはファだよ」とすぐ教えていました。
今は「どの音かな、数えてみて」と声をかけて、黙って待ちます。
5秒、10秒、ときには30秒。長く感じます。でも、その沈黙の中で子どもの頭は一生懸命動いています。
そして「ファ?」と自分で答えを見つけたとき。その子の顔がぱっと明るくなる。
教えてもらった「ファ」と、自分で見つけた「ファ」は、同じ音でもまったく違います。
待てる大人になるための心得
「この沈黙は無駄な時間ではない」と自分に言い聞かせること。子どもが考えている時間は、脳が一番活発に動いている時間です。大人が口を挟むのは、その貴重なプロセスを中断してしまうこと。黙って見守る勇気を持ちましょう。
「待つ」は信頼の表れ
待てないということは、実は「この子にはできない」と思っていることと同じです。
「自分で見つけられないだろうから教えてあげよう」「失敗するだろうから先に防いであげよう」。
優しさのように見えて、そこには信頼がありません。
逆に「待つ」ことは、「あなたならできると信じているよ」というメッセージです。
子どもは、待ってもらえたとき、自分が信頼されていると感じます。そしてその信頼が、自信になります。
待った先にある景色
待つことは、大人にとって忍耐が必要です。
でも、待った先には必ず何かがあります。
自分で音を見つけた子の誇らしげな顔。初めて最後まで一人で弾けた日の達成感。「先生、できたよ!」と目を輝かせる瞬間。
その景色は、先回りして教えていたら、絶対に見られなかったものです。
子育てもピアノも同じ。待った分だけ、子どもは自分の力で成長していきます。
子育てが教えてくれたその真実を、
ピアノレッスンの中で毎日実践しています。
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