この言葉、頭ではわかっていても、
本当にそう思えるようになるまでには時間がかかりました。
でもそう思えた瞬間から、ピアノも子育ても、ふっと楽になったのです。
「もっとこうなってほしい」が消えない
お母さんなら、きっとわかると思います。
子どもを見ていると、どうしても「もっと」が出てきてしまうこと。
もっと練習してほしい。もっと集中してほしい。もっと積極的になってほしい。
それは悪いことではありません。子どものことを思っているからこそ生まれる「もっと」です。
でも、この「もっと」が強くなりすぎると、目の前にいる子どもの姿が見えなくなります。
「今のこの子」ではなく「理想のこの子」を見てしまう。そしてその差に、お母さん自身が苦しくなる。
レッスンで気づいた「そのまま」の力
以前、とても慎重な女の子が通っていました。
新しい曲になると必ず固まってしまう。間違えるのが怖くて、なかなか鍵盤に手を伸ばせない。
お母さんは「もう少し積極的になってほしいんです」とおっしゃっていました。
でも、私はその子を見ていてこう思いました。この子は、慎重だからこそ、一度覚えたことを絶対に忘れない。ゆっくりだけれど、確実に進んでいる。
急がせる必要はない。この子のペースが、この子の正解なのだと。
活発な子には活発な子の良さがある。
のんびりな子にはのんびりな子の豊かさがある。
「そのまま」を認めたとき、その子の本当の力が見えてきます。
比べることをやめた日
ピアノ教室には、いろいろな子がいます。
すぐに弾ける子と、時間がかかる子。楽譜を読むのが得意な子と、耳で覚えるのが得意な子。目立つ子と、静かな子。
以前の私は、無意識に比べていました。「あの子はもう次の教本に進んだのに」「同じ学年なのにこの差は何だろう」と。
それをやめたのは、あるお母さんの言葉がきっかけでした。
「先生、うちの子は遅いですよね」
その一言に、私ははっとしました。お母さんが比べているのではなく、私の態度が、お母さんにそう感じさせていたのかもしれない、と。
その日から、レッスンノートに他の子との比較は一切書かなくなりました。その子だけの成長を、その子だけの言葉で記録するようにしました。
「その子基準」の見方
先月のこの子と今月のこの子を比べる。それが「その子基準」です。他の子との比較ではなく、過去のその子との比較で成長を見る。「先月は片手だったのに、今月は両手で弾けるようになったね」。この視点が、子どもの自信を育てます。
「変えよう」としない勇気
ありのままを受け止めるとは、「変えようとしない」ということです。
引っ込み思案な子を社交的にしようとしない。おとなしい子を元気にしようとしない。マイペースな子を急がせない。
これは放置とは違います。
その子の個性をそのまま受け入れた上で、その個性が活きる方法を一緒に探す。
引っ込み思案な子には、小さな成功体験を積み重ねる。おとなしい子には、音楽という言葉以外の表現手段を渡す。マイペースな子には、その子のリズムに合ったカリキュラムを組む。
「変える」のではなく「活かす」。それが、ありのままを受け止めるということだと思っています。
お母さん自身の「そのまま」も
最後にひとつ。
「この子はこの子のままでいい」は、お母さん自身にも言えることです。
完璧なお母さんでなくていい。毎日練習を見てあげられなくてもいい。レッスンの送り迎えが精一杯の日があってもいい。
「このお母さんはこのお母さんのままでいい」。
私は、レッスンに来てくださるお母さんたちに、いつもそう思っています。
そう思えたとき、肩の力が抜けて、
子どもの笑顔がもっとよく見えるようになります。
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