「子どもの気持ちを受け止めてから話す」。たったこれだけのことで、親子の会話はまったく違うものになります。
世界中で500万部以上読まれている子育てのバイブル『How to Talk So Kids Will Listen』。著者のアデル・フェイバーとエレイン・マズリッシュが伝える「言葉の力」は、ピアノレッスンの声かけにも通じる、とても大切な知恵です。
アデル・フェイバー&エレイン・マズリッシュとは
Adele Faber(アデル・フェイバー)1928–2024
作家 / 親子コミュニケーション教育者
クイーンズ・カレッジで演劇学の学士号、ニューヨーク大学で教育学の修士号を取得。ニューヨーク市の高校で8年間教壇に立った後、子育てコミュニケーションの研究に進みました。3人の子どもの母。
Elaine Mazlish(エレイン・マズリッシュ)1925–2017
作家 / 親子コミュニケーション教育者
児童プログラムのディレクターとして活動。3人の子どもの母として、日々の子育ての中から実践的なコミュニケーション方法を研究し続けました。
2人の出会いは1960年代後半。ニューヨーク州ロズリンで子育てをしていた2人は、児童心理学者ハイム・ギノット博士の子育て講座に参加しました。
8週間のコースに申し込んだつもりが、学びの深さに引き込まれ、なんと10年間通い続けたのです。
ギノット博士の教えの核心は「子どもを、大人と同じ尊厳を持つ存在として話しかける」ということ。叱りつけたり、見下したりするのではなく、対等な人間として言葉を選ぶ。この哲学が、フェイバー&マズリッシュのすべての著作の土台になっています。
2人はニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチやロングアイランド大学家族生活研究所の教壇にも立ち、コミュニケーションワークショップを全米で展開。PBSが6回シリーズのテレビ番組を制作するなど、その影響は世界中に広がりました。
Liberated Parents, Liberated Children(1974年)
デビュー作。ギノット博士のもとで10年間学んだ経験をまとめた一冊。ニューヨーク・タイムズのベストセラーに。
How to Talk So Kids Will Listen & Listen So Kids Will Talk(1980年)
世界30か国語以上に翻訳、累計500万部超の代表作。具体的な場面ごとに「どう言葉をかけるか」を解説しています。日本語版もきこ書房から出版されています。
Siblings Without Rivalry
きょうだい間の争いを減らし、それぞれの子どもを尊重する関わり方を紹介した一冊。
How to Talk So Kids Can Learn
学びの場面に特化した一冊。教室やおうちでの「学ぶ意欲を引き出す声かけ」をまとめています。
フェイバー&マズリッシュの4つの柱
1. まず、気持ちを受け止める
フェイバー&マズリッシュの教えの中で最も大切にされているのが「子どもの気持ちを受け止める」ことです。
子どもの気持ちに同意する必要はありません。ただ「その気持ちがある」ということを認めるだけでいい。それだけで、子どもは「自分の気持ちをわかってもらえた」と安心できるのです。
気持ちを受け止める4つのステップ
しっかり耳を傾ける(full attention)
「そうなんだ」「うん」と短い言葉で受け止める
気持ちに名前をつける(「悔しかったんだね」「悲しかったんだね」)
ファンタジーで願いを叶える(「魔法で全部弾けたらいいのにね」)
ピアノの場面で考えると
練習がうまくいかなくて泣いている子どもに、「泣かないの」「もう一回やればいいでしょ」と言うのではなく。
「そっか、ここが難しくて悔しかったんだね」と気持ちを受け止める。
たったこれだけで、子どもの表情が変わります。気持ちをわかってもらえたと感じた子どもは、自分で「もう一回やってみる」と言い出すことが多いのです。
2. 協力を引き出す5つのスキル
「片づけなさい」「練習しなさい」という命令ではなく、子どもが自分から動きたくなる声かけの方法です。
協力を引き出す5つの方法
見えていることを描写する:「ピアノの上に楽譜が3冊出てるね」
情報を伝える:「楽譜が開きっぱなしだと、ページが折れちゃうんだよ」
一言で言う:「楽譜」(余計な説教をしない)
自分の気持ちを伝える:「楽譜がきちんとしまってあると、私はうれしいな」
メモを書く:楽譜に付箋で「今日の練習曲」と書いておく
どのスキルがどの子に響くかは、その子によって違います。でも共通しているのは、命令ではなく「情報を渡す」ことで、子ども自身が考えて動ける余地を残すということです。
3. 罰の代わりにできること
フェイバー&マズリッシュは、罰を使うことに対してとても慎重です。罰は子どもに恨みの気持ちを生み、「悪いことをしないようにしよう」ではなく「見つからないようにしよう」という学びにつながってしまうからです。
× 罰を使う
「練習しなかったから、おやつなし」
→ 子どもの中に恨みが残り、ピアノが「嫌なもの」になりやすい
○ 代わりにできること
「練習の時間を一緒に決めてみない?」
→ 子ども自身が解決に参加することで、自発性が育つ
罰の代わりに、子ども自身を解決のプロセスに巻き込むこと。これが、内側からの責任感(セルフディシプリン)を育てる方法だとフェイバー&マズリッシュは伝えています。
4. 描写する褒め方(Descriptive Praise)
フェイバー&マズリッシュが教えるもうひとつの大切な知恵が、「褒め方」です。
評価する褒め方
「上手だね!」「すごい!」「天才!」
→ 一瞬うれしいけれど、子どもの中に残りにくい。「次も上手じゃないとダメ」というプレッシャーにもなりうる
描写する褒め方
「さっきつまずいていたところ、今度はスムーズに弾けたね」
→ 具体的な事実を伝えることで、子ども自身が「自分はがんばった」と実感できる
描写する褒め方のポイントは、親の評価を伝えるのではなく、目の前の事実を描写すること。すると子どもは、自分の中で自分を褒められるようになります。これが、本当の自信につながるのです。
フェイバー&マズリッシュの教えとピアノノギフトの「才醒」
フェイバー&マズリッシュの教えに触れたとき、私たちピアノノギフトが日々のレッスンで大切にしていることと、深くつながっていると感じました。
「言葉」が子どもの才能を目覚めさせる
フェイバー&マズリッシュの教え
気持ちを受け止めてから話す。命令ではなく、情報を渡す
ピアノノギフトの才醒
「弾きなさい」ではなく、「弾きたい」が生まれる声かけを
フェイバー&マズリッシュの教え
描写する褒め方で、子ども自身が自分を褒められるように
ピアノノギフトの才醒
「できた!」を子ども自身が実感できるレッスンを
フェイバー&マズリッシュの教え
罰ではなく、子どもを解決のプロセスに巻き込む
ピアノノギフトの才醒
やらされるのではなく、自分で選んで取り組む経験を
レッスンでの一場面
ある日、レッスンで難しいフレーズに何度も挑戦している子がいました。
3回目につまずいたとき、その子の目に涙がにじみました。
以前の私なら「もう一回やってみよう」と言っていたかもしれません。
でもこの日は、少し間を置いて「ここ、左手と右手が同時に動くところだよね。難しいところだね」と、ただ事実を伝えました。
するとその子は涙をぬぐって、「もう一回やる」と自分から言いました。
そして4回目に、弾けたのです。
「さっき左手がつまっていたところ、今度はスムーズに動いたね」と伝えると、その子はとても誇らしそうな顔をしていました。
フェイバー&マズリッシュが教えてくれたのは、「言葉は、子どもの内側にある力のスイッチになる」ということです。
「上手だね」の一言では届かない場所に、「さっきつまずいていたところが、今度はスムーズに弾けたね」という描写する言葉は届きます。
子どもは自分の中で「私、がんばったんだ」「私、できるようになったんだ」と感じる。その実感こそが、ピアノノギフトが大切にしている「才醒(さいせい)」の瞬間です。
才能は、外から「教え込む」ものではなく、子どもの中にすでにあるもの。それを目覚めさせるのは、正しい技術指導だけではありません。子どもの気持ちを受け止め、具体的な事実で声をかけ、子ども自身が「自分でできた」と感じられる瞬間を作ること。フェイバー&マズリッシュが世界中の親に伝えてきた知恵は、ピアノの前に座る子どもにも、そのまま活きるのです。
ママへのメッセージ
おうちでピアノの練習をするとき、つい「練習しなさい」「もっとちゃんと弾いて」と言いたくなること、ありますよね。
フェイバー&マズリッシュの知恵は、そんな毎日の練習時間をもっと穏やかなものに変えてくれます。
おうちの練習で使える声かけのヒント
☑ 練習を嫌がるとき → 「今日はどの曲から始める?」と選択肢を渡す(命令→選択へ)
☑ つまずいて泣きそうなとき → 「ここ難しいよね」と気持ちを受け止める(否定→受容へ)
☑ できたとき → 「さっきと比べて、ここがスムーズになったね」と事実を描写する(評価→描写へ)
☑ 練習しなかった日 → 罰するのではなく「明日はいつ練習する?一緒に決めよう」と巻き込む(罰→参加へ)
大切なのは、完璧な声かけをすることではありません。
「この子の気持ちは、今どこにあるんだろう」と一瞬立ち止まること。それだけで、言葉は変わります。
フェイバー&マズリッシュが500万部の本で伝えてきたことは、実はとてもシンプル。「子どもの気持ちを受け止めてから話す」。たったそれだけのことなのです。
子どもの気持ちを大切にするレッスンを、体験してみませんか?


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